従業員の健康に関する個人情報は外部に漏れている場合がありますが大丈夫ですか?
記事(全体向け)
2023年9月10日

個人情報には十分な配慮が必要な世の中になっておりますが、従業員の健康に関する個人情報の取り扱いに問題があるケースがしばしば見られますので、今回は健康情報等の取り扱いについて記載したいと思います。
よく頂くご質問の中には、
「健康診断結果で誰がどの病気ってわかるけど、社内の人は必要なら遠慮なく見ても大丈夫?」
「ストレスチェックの結果で高ストレスの従業員については人事権のない社員なら誰が見ても問題ない?」
「委託先とはいえ社外に従業員の健康に関する個人情報について送信するのはよくないですか?」
といった内容があります。
従業員の身体と心に関する個人情報、特に健康診断結果、ストレスチェックの結果は、社外に出しても問題ないのか、社内での取り扱いで気を付けることはどんなことなのでしょうか?
産業保健で取り扱う、従業員の健康に関する個人情報は、
・健康診断(特殊健康診断など含む)
・健康診断事後措置の内容
・二次健康診断の結果
・ストレスチェックの結果
・従業員に対する保健指導や各種面談の内容・意見書
・医療機関が発行する診断書
などがあります。
これらの健康情報は、心身の状態に関する情報の中でも、個人情報の保護に関する法律に規定された「要配慮個人情報」です。
要配慮個人情報とは、人種、病歴など、差別や偏見などの不利益が生じないように取り扱いに配慮を要する個人情報のことをいいます。
健康情報は、労働者の健康確保に必要な範囲で利用されるものとされ、身体的な疾患、精神疾患の既往があるからといって、社会生活、人事などに関して不利な扱いを受けないようにすることがひとつの大きな目的です。
これらの健康情報は、事業者が労働安全衛生法上の義務を果たす上で必要とされるものを除いて、取得にあたり本人からの同意が必要です。また、第三者への提供に関しても原則として本人からの同意が必要です。
健康情報等を取り扱う担当者は、基本的には、
・人事に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者(社長、役員、人事部長)
・産業保健業務従事者(産業医、保健師、衛生管理者など)
・管理監督者(労働者の所属長)
・人事部門の事務担当者
となり、それぞれが取り扱う情報の範囲は、衛生委員会など労使関与のもとで定めます。
健康情報等の取り扱いで問題となるのは、これらの担当者以外への情報提供において、本人からの同意が必要であるにも関わらず、同意がなく、健康情報等が漏洩するケースです。
医療機関では、不利な扱いとなりやすい患者さんの病気などの情報が漏洩しないよう、かなり厳しく個人情報を取り扱っていますが、産業保健界隈では、様々な機関が関与するため、従業員にとって知られると差別や偏見を持たれる可能性がある健康情報等の取り扱いが、医療機関よりは粗末になっているように見受けらるケースが多くあり、注意が必要です。
例えば、産業医を企業が選任する際に、一部の方法では、産業医仲介会社が間に入り、企業-産業医仲介会社-産業医として、企業-仲介、仲介-産業医の双方で業務委託契約している場合があります。
この際、企業と産業医との連絡は、仲介が外されないよう、必ず仲介会社を通すことが契約書面で義務付けられることが多く、従業員の健康診断結果、ストレスチェックの結果、休職・復職の情報及び意見書などが、仲介会社に渡ってしまいます。
ある仲介会社では、実際に企業の要配慮個人情報を誤って他の企業に送信するなどして、謝罪に向かう事例もありました。
罰則は労働安全衛生法に規定されており、同法119条では、健康診断の情報を漏洩した者を、6月以下の懲役または50万円以下の罰金に処すとしています。
健康情報等を取り扱う上で参考となる資料として、厚生労働省による「事業場における労働者の健康情報等の取扱規定を策定するための手引き」があります。
https://www.mhlw.go.jp/content/000497426.pdf
事業者は、労使の話し合いに基づき、健康情報等の取扱いのあり方が取扱規程として策定され、労働者に周知されるなど適正な取扱いが確保されることが求めらています。
また、就業規則等に記載することが望ましいとされています。
こちらの厚生労働省の手引きには、取扱規程の雛形、健康情報等の周知方法、健康情報の取扱者の適切な範囲などとともに詳細が記載されています。
健康診断、ストレスチェックなどについて、社外に委託する場合は、取扱規定を遵守しているかどうかを判断し、適切に管理する必要があります。
特に、産業医仲介業者等は、社外の機関であって、健康情報等を取り扱う担当者ではありませんから、提供するにあたって該当する従業員各々からの同意が必要となります。
ちなみに、医療従事者には守秘義務が課せられており、例えば医師法では、第17条の3により規定されています。医療従事者全般にこうした規定があり、守秘義務に違反した場合、刑法134条により、6月以下の懲役または10万円以下の罰金が定められています。
全ての医療機関では、要配慮個人情報を外部に漏らすことのないよう徹底的にスタッフを指導・教育しており、通常医療従事者は、医療機関外に個人情報を漏らす所作を限りなく0に近付けています。
医療従事者以外の方に患者さんの情報を一切話さないのはもちろんのこと、医療機関外に患者さんの個人情報が少しでも書かれたものを持ち出すこともありません。
しかし、一部の医療機関においては、患者さんの個人情報が漏洩するケースが存在します。
こうしたケースで最も多いのが、USBなどの記録媒体を医療機関外に持ち出して紛失してしまうケースとされています。
この場合、当該医療従事者は、医療機関では不利な立場になるとともに、該当する患者さんに個人情報漏洩について知らせ、謝罪し、罰則が適用されます。
産業医にも勿論守秘義務が課せられていますので、従業員の健康情報を企業に報告する場合、従業員の同意に基づき、必要な範囲で報告します。この際、やはり、仲介会社に情報がわたる場合は、当該従業員の同意が必要です。
また、産業医は企業の訪問の際など、企業における従業員の健康情報等が入力されたPC等の持ち出しをすることがあるので、非常な注意が必要です。
その他、個人情報の取扱上参考になるリンク先です。
・個人情報の保護に関する法律のガイドライン
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
・労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針
https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/000343667.pdf
・雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項
https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/var/rev0/0119/9536/koyoukanri.pdf
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