専属産業医が他事業場で嘱託産業医としても選任されるのは問題ないですか?
記事(全体向け)
2024年5月31日

「専属産業医として勤務しておりますが、週3の訪問なので、他の日程で嘱託産業医もしたいのですが、問題ないでしょうか?」
といったご質問をいただくことがあります。
産業医として専属と嘱託を同時にこなすことは可能なのでしょうか?
可能だとして、どこまでが許容されるのでしょうか?
専属産業医の選任が必須の条件は
事業場の常時勤務する従業員が1000名以上(有害業務は500名以上)
となっております。
専属産業医の場合も、選任義務の発生からやはり14日以内に選任が必要であり、
選任後遅滞なく所轄の労働基準監督署長に届出することが必要です。
専属とは、本来、あるひとつの事業場のみと契約し、その他の事業場とは関係しないような意味合いを持ちます。
従いまして、通常は、契約したひとつの事業場における従業員が勤務する時間帯には対応可能となっていることが期待されます。
ただし、これらの契約や対応時間の縛りなどに関する事項は、法的には明確に定められていません。
実際には、専属産業医とはいえ、週2回の訪問や、中には週1日など低頻度しか訪問していない場合があるようです。
これらの頻度での訪問、特に週1回といった頻度での訪問・対応では、公的機関としては、専属産業医を選任しているとすることができず、
指導の対象となり、改善ない場合、事業場に罰則が与えられる可能性があると回答されておりますので、注意が必要です。
本来の専属の意味を考慮するとしても、元請に隣接した下請けについて専属産業医が対応した方が良い事例もあり、
厚生労働省からは、「専属産業医が他の事業場の非専属の産業医を兼務することについて」として兼務について明確にされていました。
令和3年3月31日の改訂までは以下のような内容であり、地理的な制限があり、専属と嘱託の兼務は制限が大きいものでした。
厚生労働省
基発第214号(平成9年3月31日)
https://jsite.mhlw.go.jp/mie-roudoukyoku/var/rev0/0108/4350/2013122791450.pdf
以下の全てを満たす場合は、専属産業医の他、嘱託の産業医に選任されることができました。
・専属産業医の所属する事業場と非専属事業場とが、地理的関係が密接(1時間以内で移動可)であること(*)
・労働衛生に関する協議組織が設置されている等労働衛生管理が相互に密接し関連して行われていること
・労働の態様が類似していること等、一体として産業保健活動を行うことが効率的であること
・専属産業医が兼務する事業場の数、対象労働者数については、専属産業医としての趣旨を踏まえ、その職務の遂行に支障を生じない範囲内とすること
・対象労働者の総数については、労働安全衛生規則第13条第1項第3項の規定に準じ、3000人を超えてはならないこと
(*)「地理的に密接であること」は、
厚生労働省
基安労発1225第1号(平成25年12月25日)
https://jsite.mhlw.go.jp/mie-roudoukyoku/var/rev0/0108/4351/201312279154.pdf
に記載があり、
2つの事業場間を徒歩または公共の交通機関や自動車等の通常の交通手段により、1時間以内で移動できる場合を含む
とされておりました。
基本的に、「下請けのような事業場では元請の専属産業医が選任されることも考慮される」といった内容でしたが、
令和3年3月31日に基発0331第5号として、厚生労働省より通知があり、
リンク先の通り変更されました。
https://www.mhlw.go.jp/web/t_img?img=1196838
https://www.mhlw.go.jp/web/t_img?img=1196839
現在は、地理的関係が密接であることという条件が撤廃され、
・労働衛生に関する協議組織が設置されている等労働衛生管理が相互に密接し関連して行われていること
・労働の態様が類似していること等一体として産業保健活動を行うことが効率的であること
・専属産業医が兼務する事業場の数、対象労働者数については、専属産業医としての趣旨及び非専属事業場への訪問頻度や事業場間の移動に必要な時間を踏まえ、その職務の遂行に支障を生じない範囲内とし、衛生委員会等で調査審議を行うこと
なお、非専属事業場への訪問頻度として、労働安全衛生規則第15条に基づき、少なくとも毎月1回(同条で定める条件を満たす場合は少なくとも2月に1回)、産業医が定期巡視を実地で実施する必要があることに留意すること
・対象労働者の総数については、労働安全衛生規則第13条第1項第4項の規定に準じ、3000人を超えてはならないこと
が兼務の条件として変更されました。
この変更は、デジタル技術の進展に伴い、情報通信機器を用いて遠隔で産業医の職務の一部を遂行することへのニーズに応えたもの、
という意味合いがあります。
これらの条件を満たす場合に、専属産業医は、嘱託産業医としての兼務が可能です。
私個人的に、兼務により、指導を受けたり、罰則が与えられた例を見聞きしたことはいまのところございませんが、
元来の専属産業医としての趣旨を満たす必要はあるかと思いますし、
専属先以外に、全国の複数の事業場に選任されている場合などは、査察の際などに問題となるケースがあるとされておりますので、
兼務の際は、ご参考にして頂ければ幸いです。
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