有機溶剤はたまに使うだけなので特殊健康診断しなくて大丈夫ですよね?
記事(全体向け)
2023年9月22日

「有機溶剤??うちは有機溶剤は扱ってないです。スプレーですか?使ってますよ。(有機溶剤入り)」
「有機溶剤は確かに保管してますが、週に1回しか使わないので、特殊健康診断はしてないですね。」
規模の大きい製造業、学術系の業種などでさえも、有機溶剤についてこのような発言を聞くことがあります。
実際には有機溶剤に関する一連の対策が必要であり、放置してきた結果、警告をもらうことが稀ではありません。
何が有機溶剤に該当して、どういう基準で特殊健康診断をする義務があるのかなど、法律が複雑で、かつ解釈しづらいというご意見が多く、今回は、意外と身近にも存在する有機溶剤に関して企業に義務付けられていることなどを記述していきたいと思います。
明確な基準がない部分、労働基準監督署によっても対応が異なる部分なども後半で記載しております。
有機溶剤とは、油などの水を弾くような物質を溶かす有機化合物(炭素原子を含む化合物)からなる液体です。
水に溶けにくい物質も有機溶剤で溶かすことが可能となり、また、その可燃性や化学反応により様々な産業に活用されています。
有機溶剤は工業用に限定しても500種類以上存在します。
日常では、お酒にエタノールが、ライターにブタンなどが含まれ、石油やシンナーなど身近にも溢れています。
有機溶剤は常温で液体ですが、基本的に揮発性であり、吸い込むことで肺から、また皮膚から体内へ入り、脂肪などに溶け込みますので、様々な健康被害をもたらすことがあり、取り扱いには注意が必要です。
人間の神経繊維は伝達速度を大きくするために脂肪成分が多く使われており、有機溶剤が神経機能を奪う結果として、
集中力低下、手足の痺れ、めまい、嘔吐、幻覚など精神症状を呈したり、酷いときは意識障害となることもあります。
こうした事態を避けるため、有機溶剤中毒予防規則(有機則)という法律により、質量パーセント濃度で5%以上の対象化合物を含有している有機溶剤を扱う場合に、企業が実施しなくてはいけないことが規定されております。
5%を超えているかどうかは、製品に添付されいてるSDS(安全データシート)で確認可能です。
SDSには、このように物質の含有量が記載されております。
有機則に規定される有機溶剤は、現在54種類(特定化学物質移行のものを含む)あり、人体への有害性の強度により、強い順で第1種、第2種、第3種有機溶剤と分けられます(労働安全衛生法施行令別表第6の2、有機則第1条)。
これらの有機溶剤を使用(有機則第1条参照)している事業所は、
1 有機溶剤に関する特殊健康診断
2 作業環境測定
3 発散源対策
4 作業主任者の選任
を実施する必要があります。
一部所轄の労働基準監督署によって解釈や対応が異なることが報告されておりますので、注意が必要です。
まず、スタンダードな方法としては、厚生労働省などが、リンク先のようにわかりやすくまとめております。
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/120815-01.pdf
1 有機溶剤に関する特殊健康診断
有機則によれば、「有機溶剤業務に常時従事する労働者に対して、雇入れの際、または当該業務への配置替えの際及びその後6月以内ごとに1回、定期に、次の項目について健康診断を実施(第3種有機溶剤はタンク内業務に限る)」
と記載されており、「有機溶剤業務に常時従事する労働者に対して」とあるため、
「常時って一体どれくらいの頻度ですか?」という質問が絶えません。
この質問に対して、明確な公式の記載が存在しないため、厚生労働省や労働基準監督署は、この記述における「常時」の頻度について答えることができず、個別の事例に沿って回答がなされます。
ちなみに、東京都のおおよその基準では、1度に使用する時間に関わらず、週1回以上の頻度で使用していれば、特殊健康診断の実施義務があるとされています。
ただし、所轄の労働基準監督署によって基準が異なり、厳しいところでは、1ヵ月に1度数分でも使用していれば特殊健康診断を実施してくださいと言われることがありますので要注意です。
特殊健康診断の実施基準として間違われやすいこととしては、有機則第2条の適用の除外の規定で許容される消費量を超えないから実施しなくて大丈夫!と判断しがちなことです。
有機溶剤特殊健康診断は、この有機則第2条の適用の除外の基準は範囲外となります。
ただし、健康診断を1-2年など実施した上で、問題ないことを所轄の労働基準監督署に証明し、許可があれば必ずしも実施する必要はありません(有機則第3条)。
特殊健康診断を実施しなかったこと等による罰則があり、6月以下の懲役または50万円以下の罰金となっております(労働安全衛生法第66条、労働安全衛生法第120条)。
2 作業環境測定
第1種、第2種有機溶剤を屋内で使用する場合、作業環境測定士により半年に1回以上の頻度で作業環境測定を実施することが必要です。
測定の記録は3年間事業所で保存することになっております。
作業環境測定の場合も、やはり有機則第2条の適用の除外の規定を受けませんので、うちは月1回数分しか使用しないけれども?という場合でも実施することが必要です。
こちらもこれまでの測定結果2年分などを所轄の労働基準監督署に提出し、許可があれば省略することができます(有機則第3条)。
3 発散源対策
a 54種の有機溶剤のうち1つ以上が5%以上含まれているか?
b 有機溶剤業務か?
c 通風が不十分な屋内などにおける作業か?
a-cを満たす場合は、第1種、第2種、第3種有機溶剤の区分、及び個別の事例に応じて、発散源を密閉するか、局所排気装置かプッシュプル型換気装置、全体換気装置を使用した措置等を実施する必要があります。
こちらは、有機則第3条の除外の適用とともに、第2条により労働基準監督署の許可を得ずとも措置の義務から外れる可能性があります。
ちなみに、消費した有機溶剤の重量の計算は、これまでの方法ですと、液体中の有機溶剤重量%濃度ではなくて、こちらの係数が使用されますので、考慮される重量が大きくなる傾向にあります。
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=74091000&dataType=0&pageNo=1
4 作業主任者の選任
通風が不十分な屋内などの場所(労働安全衛生法施行令第6条第22号)で有機溶剤を使用する場合は、作業主任者の選任が必要です。
作業主任者の資格は作業主任者技能講習を受講することで取得可能で更新不要の永久資格です。
全国の都道府県で実施されており、どこでも受講可能です。
成人であれば2日間の受講でどなたでも取得することが可能で、9割以上の方が合格します。
作業主任者の選任も、有機則第2条、第3条の除外の適用を受けますので、実施義務から外れる可能性があります。
作業主任者として企業から選任された後、作業主任者は、
a 有機溶剤による汚染、吸入しないように作業方法を決定して労働者を指揮する
b 局所排気装置、プッシュプル型換気装置、全体換気装置を毎月以上の頻度で点検する
c 保護具の使用状況を監視する
などのことをします。
作業環境測定、発散源対策、作業主任者の選任はやはり罰則があり、6月以下の懲役または50万円以下の罰金となっております(労働安全衛生法第22条、労働安全衛生法第119条)。
いずれの場合も、そもそも代替物を使用できるようであれば、有害な作業をせずに済みますし、1-4の実施も免れますので、見直してみることが考慮されます。
有機則では不明な箇所につきましては、こうした通達などがお役に立ちます。
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc2659&dataType=1&pageNo=1
ご不明点ございましたら、遠慮なくご質問等して頂ければ幸いです。
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