企業のハラスメント対策とは?法的義務・相談対応などを解説|産業医explorer

企業のハラスメント対策とは?法的義務・相談対応などを解説

記事(全体向け)

2026年8月31日

職場のハラスメント対策は、問題が起きた後に行為者を処分するだけでは機能しません。方針と規程、相談窓口、迅速で公正な事実確認、相談者の安全と健康の支援、行為者への適正な対応、再発防止までを一つの仕組みとして運用する必要があります。

対策が機能すれば、従業員の安心感だけでなく、離職防止、採用力、組織内の報告・相談のしやすさ、生産性、取引先からの信頼にもつながります。反対に、相談を軽視したり、情報管理を誤ったりすると、二次被害や紛争を拡大させるおそれがあります。

企業規模を問わず必要

パワハラ、セクハラ、妊娠・出産、育児・介護休業等に関するハラスメントの防止措置は、企業規模を問わず事業主に求められています。

2026年10月1日の要点

2026年10月1日から、カスタマーハラスメントと求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置も事業主の義務になります。

相談受付と認定は別

「相談を受けること」と「法的にハラスメントと認定すること」は別です。判断が難しい段階でも相談を受け、安全確保と事実確認につなげます。

産業医は健康支援を担当

産業医・保健師は主に健康支援と就業上の配慮を担い、人事・法務等が担う事実確認や懲戒判断とは役割を分けて連携します。

2026年10月1日から企業のハラスメント防止義務が拡大

2025年6月11日に改正法が公布され、2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策と求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が事業主の義務になります。防止指針は2026年2月26日に公布されています。

参照:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」制度改正の詳細版リーフレット

カスタマーハラスメントは3つの要素で判断する

法律上のカスタマーハラスメントは、次の3つをすべて満たすものです。

  1. 顧客、取引先、施設利用者など、事業に関係する者の言動であること
  2. 業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えること
  3. その言動によって、労働者の就業環境が害されること

電話、メール、SNSなど、オンライン上の言動も対象になり得ます。暴行、脅迫、侮辱、人格否定、土下座の強要、執拗な連絡、長時間の拘束、不当な金銭要求などは典型例ですが、個別事情を踏まえて判断します。

顧客からの苦情や改善要求のすべてがカスハラになるわけではありません。要求内容に理由があるかと、伝え方や手段が相当かを分けて確認し、正当な申出を排除しないことが重要です。障害を理由とする差別の禁止や合理的配慮の提供義務にも留意します。

参照:厚生労働省「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」

求職者等へのセクハラ対策は採用活動全体が対象

求職者等に対するセクシュアルハラスメントとは、事業主が雇用する労働者による性的な言動によって、求職者等の求職活動等が妨げられることです。応募者だけでなく、採用に関係する活動への参加者、インターンシップ参加者、教育実習・看護実習などの実習を受ける人も対象に含まれます。オンライン面談やSNSを介した連絡も対象です。

企業は、禁止方針と行為者への対処を明確にし、求職者等が利用できる相談窓口を周知し、相談後の事実確認、被害者への配慮、行為者への措置、再発防止を行える体制を整えます。面談の時間・場所・同席者、個人SNSの利用、懇親会や飲酒を伴う場など、採用活動のルールも事前に定めておく必要があります。

採否への不利益に関する注意 労働者が自分の職場のハラスメントを相談したこと等を理由とする不利益取扱いの禁止と、求職者本人からの相談は、法律上まったく同じ扱いではありません。一方、相談窓口を実効的にするには、相談・通報が選考に不利益を与えない方針を明示し、採用判断と相談対応を分離する運用が適切です。なお、求職者等からの相談対応に協力して事実を述べた自社の労働者への不利益取扱いは、法律上禁止されています。

参照:厚生労働省「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」

ハラスメントの実態と企業が放置するリスク

調査結果は対象者と期間をそろえて読む

厚生労働省の「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」では、次の結果が公表されています。

調査項目 割合 調査対象・期間
パワーハラスメント 19.3% 全国の20~64歳の労働者8,000人。過去3年間の勤務先等での経験
セクシュアルハラスメント 6.3% 同上
顧客等からの著しい迷惑行為 10.8% 同上
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント等 26.1% 過去5年間に就業中の妊娠・出産を経験した女性1,000人
男性の育児休業等に関するハラスメント等 24.1% 過去5年間に勤務先で育児に関わる制度を利用しようとした男性500人
インターンシップ中の就活等セクハラ 30.1% 2020~2022年度卒業者のうち、インターンシップ参加者758人
インターンシップ以外の就職活動中の就活等セクハラ 31.9% 2020~2022年度卒業者のうち、該当する就職活動経験者737人

一般労働者、妊娠・出産経験者、育児制度を利用しようとした男性、就職活動経験者では、調査対象と対象期間が異なります。このため、割合の大小を単純に比較することはできません。また、妊娠・出産・育児休業等および男性の育児休業等の質問票では、「ハラスメントまたは不利益取扱い」の経験を尋ねています。「顧客等からの著しい迷惑行為」は調査上の項目名であり、2026年10月施行の法律上のカスタマーハラスメントと完全に同じ概念ではありません。

参照:厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(正誤反映版)」

労災補償の件数からも健康影響の重さが分かる

厚生労働省が公表した令和7年度の精神障害に関する労災補償状況では、請求件数は4,958件、支給決定件数は1,082件でした。支給決定事案の「出来事」別では、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が222件、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」と「セクシュアルハラスメントを受けた」がそれぞれ127件でした。

請求件数から単純な「認定率」は計算できません 請求件数はその年度に請求を受け付けた件数、支給決定件数はその年度に決定した件数です。同じ案件集団の分子・分母ではないため、1,082件を4,958件で割って認定率とする読み方は適切ではありません。

参照:厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」

放置した場合の主なリスク

  • 健康被害:不眠、抑うつ、不安、身体症状、休職などにつながり、緊急時には自傷・自殺リスクへの対応が必要になります。
  • 人材流出と採用難:相談しても改善されない職場では、被害者だけでなく周囲の従業員も離職を検討しやすくなります。
  • 生産性と安全性の低下:萎縮によって報告・提案が減り、ミスや事故の兆候が共有されにくくなります。
  • 法的・行政上のリスク:防止措置義務への違反は行政の助言、指導、勧告等の対象となり、個別事案では損害賠償責任や安全配慮義務違反が争われることがあります。
  • 信用の低下:不適切な初動や隠蔽と受け止められる対応は、従業員、応募者、顧客、取引先からの信頼を損ないます。

主なハラスメントの種類と判断のポイント

パワーハラスメント

職場のパワーハラスメントは、①優越的な関係を背景とした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動、③労働者の就業環境が害されること、の3要素をすべて満たすものです。上司から部下への言動に限らず、専門知識や人間関係を背景に抵抗しにくい状況があれば、同僚や部下からの言動も対象になり得ます。

身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害が代表的な6類型です。ただし、6類型だけですべてが決まるわけではありません。目的、必要性、言葉、場所、頻度、継続時間、相手の心身の状況などを総合して判断します。客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲の適正な指示・指導は、パワハラには該当しません。

セクシュアルハラスメント

職場のセクシュアルハラスメントは、労働者の意に反する性的な言動への対応によって労働条件上の不利益を受ける場合や、性的な言動によって就業環境が害される場合をいいます。同性間でも成立し、行為者は上司や同僚だけでなく、顧客、取引先、患者、利用者などの場合もあります。

「本人が不快だと感じたか」は重要ですが、それだけを唯一の基準として機械的に決めるものではありません。言動の内容、関係性、状況、反復性、就業への影響などを確認します。一方、意に反する身体接触など、重大な言動は一度でも就業環境を害し得ます。

妊娠・出産、育児・介護休業等に関するハラスメント

妊娠・出産という状態や、育児・介護休業、短時間勤務などの制度を利用したこと、利用しようとしたことに関する上司・同僚の言動によって、就業環境が害されるものです。制度利用を取り下げるよう迫る、利用者を繰り返し非難する、必要な仕事を与えないといった行為が問題になります。

妊娠、出産、育児・介護休業等を理由とする解雇、降格、雇止めなどは、ハラスメントとは別に、法律で禁止される不利益取扱いに該当する可能性があります。相談時には、嫌がらせの有無と人事措置の適法性を分けて確認します。

性的指向・ジェンダーアイデンティティ(SOGI)に関する言動とアウティング

SOGI(ソジ)とは、英語の「Sexual Orientation(性的指向)」と「Gender Identity(ジェンダーアイデンティティ)」の頭文字を組み合わせた言葉です。性的指向は「どのような性別の人を恋愛・性的な関心の対象とするか、または対象としないか」、ジェンダーアイデンティティは「自分の性別をどのように認識しているか」を指します。SOGIは一部の人だけではなく、すべての人に関係する概念です。

これらに関する侮辱的な言動、本人の了解を得ずに性的指向やジェンダーアイデンティティを他人に伝える「アウティング」、カミングアウトの強要・禁止は、パワハラの3要素を満たす場合にはパワハラに、顧客等の言動でカスハラの3要素を満たす場合にはカスハラに該当します。

セクシュアルハラスメントは、当事者の性的指向やジェンダーアイデンティティにかかわらず成立し得ます。ただし、アウティングであることだけを理由に、直ちにセクハラと決めるのは正確ではありません。行為の内容に応じて該当する法的類型を確認しつつ、社内規程では性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する嫌がらせやアウティングを明確に禁止しておくと相談しやすくなります。

アルコールハラスメント

飲酒の強要、意図的な酔いつぶし、飲めない人への侮辱、酔った上での暴言・暴力などは、「アルコールハラスメント」という独立した法的類型ではありませんが、パワハラ、セクハラ、暴行等に該当し得ます。勤務時間外の懇親会でも、職務との関連性、参加者、参加の強制性などから実質的に職務の延長と評価される場合があります。

参照:厚生労働省「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」

対策を設計するときは、「法令上求められる措置」と「相談しやすさを高めるための実務上の工夫」を区別すると、過不足を点検しやすくなります。

項目 位置づけ 実務で整えること
方針の明確化・周知 法令上の措置 禁止方針、対象行為、行為者への対処内容を規程に定め、管理職を含む労働者へ周知する
相談窓口 法令上の措置 実質的に対応できる担当者・窓口を定め、利用方法を周知する。求職者等向け窓口は求職者等にも周知する
広い相談受付 法令上の措置 発生のおそれがある場合や、該当性が微妙な場合も含めて相談を受ける
事実確認と事後対応 法令上の措置 迅速かつ正確に確認し、被害者への配慮、行為者への適正な措置、再発防止を行う
プライバシー保護 法令上の措置 相談者、行為者、協力者等の情報を必要な範囲で管理し、その取扱いを周知する
不利益取扱いの防止 法令上の措置を中心に整理 労働者の相談や調査協力を理由とする不利益取扱いを禁止する。求職者本人の採否については、相談対応と採用判断を分離する社内方針を明確にする
複数の相談方法 実務上の工夫 面談、電話、メール、外部窓口などを組み合わせる。同性担当者、匿名相談等は事業場の事情に応じて検討する
背景要因の改善 類型により法令上の措置または望ましい取組 業務量、役割の曖昧さ、長時間労働、管理職の権限集中、顧客対応の孤立などを見直す

匿名窓口、外部窓口、同性担当者の選択、複数チャネルのすべてが、それぞれ独立した法的義務というわけではありません。法令上は実質的に利用できる相談体制を整えることが重要であり、その実効性を高める手段として、自社の規模やリスクに合う方法を選びます。

参照:厚生労働省「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」

実効性のあるハラスメント対策をつくる8つの手順

1経営トップの方針を具体的に示す

「ハラスメントを許さない」だけでなく、相談者を守ること、事実に基づいて公正に対応すること、役員や管理職も例外にしないことを明示します。経営層自身が研修を受け、例外扱いをしない運用が重要です。

2規程と役割分担を整える

就業規則、ハラスメント防止規程、相談対応マニュアルを連動させます。相談受付、緊急対応、事実確認、評価、懲戒、健康支援を誰が担うかを分け、利害関係がある場合の代替担当者も定めます。

3職場ごとの発生リスクを把握する

匿名アンケート、勤怠、離職理由、相談記録、ストレスチェックの集団分析などから、長時間労働、役割の曖昧さ、過度な成果圧力、属人的な権限、顧客対応の孤立といった背景要因を確認します。個人を特定しない形で組織課題を抽出します。

4相談しやすい窓口を設計する

社内窓口だけで匿名性や独立性を保ちにくい場合は、外部窓口や別拠点の担当者を組み合わせます。メールやフォームなど複数の相談方法も有効です。匿名相談を受ける場合は、事実確認や結果説明に限界があることもあらかじめ示します。

5立場別の研修を行う

全従業員には定義、相談先、傍観者としての行動を、管理職には指導とハラスメントの境界、初動、記録、報復防止を、相談担当者には傾聴、緊急度判断、事実確認、情報管理を学ぶ研修を行います。事例とロールプレイを取り入れ、定期的に更新します。

6相談から事実確認までを標準化する

緊急性、証拠保全、暫定措置、聞き取りの順番、調査担当者、期限、記録様式を定めます。結論を先に決めず、相談者と行為者から別々に話を聴き、必要に応じて第三者の証言、メール、チャット、勤怠等を確認します。

7安全と健康、就業継続を支援する

行為者との接触回避、業務や勤務時間の一時的調整、休養、医療機関や産業医・保健師への相談などを選択肢として示します。被害を訴えた本人だけを異動させるなど、本人に不利益が集中する対応は避けます。

8再発防止と効果検証を続ける

行為者への指導・懲戒だけで終わらせず、管理体制、業務配分、評価制度、採用活動、顧客対応手順などを見直します。相談件数だけでなく、相談までの期間、初動時間、再発、研修理解度、職場調査の変化を確認します。相談件数の増加が、窓口の認知や信頼向上を示す場合もあります。

ハラスメント相談を受けたときの対応フロー

段階 実務上のポイント
1.安全確保・緊急度判断 暴力、脅迫、つきまとい、急性の心身不調、自傷・自殺リスクがある場合は、通常の調査より先に安全確保、医療、警察等への連絡を検討する
2.相談受付 話を遮らずに聴き、相談者の希望、現在の安全、関係者、記録の有無を確認する。秘密保持の範囲と、対応のために共有が必要になる場合を説明する
3.暫定措置・証拠保全 接触回避、勤務場所・時間の調整、データ保存などを行う。暫定措置は処分の先取りにならないようにし、相談者へ過度な証拠収集を求めない
4.事実関係の確認 相談者、行為者、関係者から個別に聞き取り、メール、チャット、録音、勤怠等を確認する。行為者にも説明・反論の機会を確保し、記録を残す
5.評価・措置決定 法令上の定義と社内規程への該当性を分けて検討する。重大性、反復性、被害、再発可能性、類似事例との均衡を踏まえ、複数名で判断する
6.被害者への配慮・行為者対応 安全と健康を支援し、事実が確認された場合は就業規則に基づいて指導・懲戒等を行う。必要に応じて周囲の従業員へのケアも行う
7.結果説明・再発防止 プライバシーを守れる範囲で相談者へ対応状況を伝え、報復や二次被害がないか確認する。事実確認に至らなかった場合も、職場環境や手順の改善を検討する

初動で避けたい対応 「証拠がないから対応できない」「その程度は普通」「あなたにも原因がある」と決めつける、相談者と行為者をすぐ同席させる、行為者へ相談内容をそのまま転送する、絶対に誰にも話さないと約束する、相談撤回を促す、といった対応は二次被害や調査妨害につながります。

相談時点で、法的要件や証拠がすべてそろっているとは限りません。厚生労働省の指針では、発生のおそれがある場合や、ハラスメントに該当するか微妙な場合も広く相談対象に含め、初期段階で迅速に対応することが求められています。

参照:厚生労働省「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」

ハラスメント対策における産業医・保健師の役割

産業医や保健師などの産業保健スタッフは、主に心身の状態の評価、医療への接続、就業上の配慮、職場復帰支援、健康面からの職場改善を担います。通常、ハラスメント調査の中心担当者や、懲戒を単独で決める担当者にはしません。

事業場の体制によっては、産業医等が健康面の事情聴取や調査への助言に関与することがあります。その場合は、健康相談と事実確認の目的を混同しないよう、本人への説明、担当者の役割、共有範囲、記録の保管先を明確にし、利益相反に配慮します。

担当 主な役割
相談窓口 相談受付、緊急性の確認、相談者の希望確認、適切な担当部門への接続
人事・法務 事実確認、法令・規程に基づく評価、暫定措置、懲戒・人事措置、再発防止、関係者への説明
外部調査者・弁護士等 経営層が関係する場合や社内に利益相反がある場合の独立した調査、法的助言
産業医・保健師等 心身の状態の評価、医療機関への紹介、就業上の配慮に関する意見、復職支援、健康面からの組織改善
経営層 方針の明確化、必要な資源の確保、例外を設けない運用、重大事案への意思決定
管理職 早期把握、相談先への接続、暫定的な安全確保、職場での報復・二次被害の防止

心身の不調を早期に把握し、必要な支援へつなぐ

欠勤・遅刻の増加、表情や行動の変化、業務ミス、不眠、動悸などは、心身の不調のサインである可能性があります。ただし、これらだけでハラスメントの発生を決めつけることはできません。本人の意思を尊重して面談し、緊急性を評価し、医療や休養、就業上の配慮へつなげます。

健康情報は必要最小限に加工して共有する

健康相談など法令に基づかない機会に得た健康情報は、原則として本人への説明と同意を前提に取り扱います。事業者へ共有するときは、就業上の措置に必要な範囲と提供先に限定し、診断名、検査値、具体的な訴えをそのまま渡すのではなく、「残業を避ける」「一時的に対人負荷の高い業務を外す」など、必要な配慮へ加工して伝えます。

一方、法令上の根拠がある場合や、生命・身体の保護に必要で本人の同意を得ることが困難な場合などには例外があります。「本人の同意がなければ絶対に共有しない」「会社にはすべて伝える」のどちらも適切ではありません。事業場ごとに健康情報取扱規程を定め、誰が、何の目的で、どの範囲の情報を扱うかを明確にします。

参照:厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱い指針」「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

個人を特定しない形で組織改善へつなげる

個別面談の内容をそのまま共有するのではなく、複数の相談に共通する長時間労働、業務の偏り、管理職のマネジメント、顧客対応の孤立などを、個人が特定されない形で衛生委員会や経営層へ助言します。ストレスチェックの集団分析、休職・離職傾向、相談記録などと組み合わせると、職場環境改善につなげやすくなります。

参照:厚生労働省「産業医」

50人未満の小規模事業場で始めるハラスメント対策

産業医の選任義務は、会社全体の人数ではなく、原則として「事業場」ごとに判断し、常時50人以上の労働者を使用する事業場に生じます。一方、ハラスメント防止措置は企業規模にかかわらず必要です。

小規模事業場では、社内だけで匿名性や独立性を保ちにくいため、仕組みを簡潔にしながら外部資源を組み合わせる方法が現実的です。

  • 禁止行為、相談先、不利益取扱いの禁止、対応手順を短い規程にまとめる
  • 経営者以外にも相談できる外部窓口または社外専門家を確保する
  • 経営者や役員が当事者になる事案では、社内だけで調査を完結させない
  • 厚生労働省の無料教材を使い、管理職と相談担当者の研修を行う
  • 健康支援が必要なときは、地域産業保健センターや医療機関への接続を検討する

地域産業保健センターは、労働者数50人未満の小規模事業場の事業者や労働者に、健康相談などの産業保健サービスを原則無料で提供しています。メンタルヘルスに関する健康相談も対象です。ただし、ハラスメントの法的判断、懲戒判断、事実調査を代行する機関ではありません。対象、利用方法、提供内容は最寄りの地域窓口で確認してください。

参照:厚生労働省「産業医」労働者健康安全機構「地域窓口(地域産業保健センター)」あかるい職場応援団「資料ダウンロード」

社内での対応に不安がある場合、総合労働相談コーナーでは、労働者だけでなく事業主からの相談も受け付けています。募集・採用、いじめ・嫌がらせ、パワハラなど幅広い労働問題が対象です。

参照:厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」

自社のハラスメント対策チェックリスト

  • 経営トップが、相談者保護と公正な対応を含む方針を明示している
  • パワハラ、セクハラ、妊娠・出産、育児・介護休業等、カスハラ、求職者等セクハラを規程でカバーしている
  • 性的指向・ジェンダーアイデンティティ(SOGI)に関する嫌がらせ、アウティング、飲酒の強要なども相談対象として明記している
  • 行為者への対処内容が就業規則等に定められている
  • 実質的に利用できる相談窓口と連絡方法を周知している
  • 法的定義に該当するか不明な段階でも相談を受ける運用になっている
  • 相談担当者が、初動、記録、緊急度判断、情報管理の研修を受けている
  • 相談受付、調査、懲戒判断、健康支援の役割が整理されている
  • 利害関係がある場合の代替担当者や外部調査の手順がある
  • 相談者、行為者、協力者等のプライバシー保護ルールがある
  • 労働者の相談・調査協力を理由とする不利益取扱いや報復を禁止している
  • 被害者の安全確保、勤務調整、医療・産業保健への接続方法がある
  • カスハラの現場対応、エスカレーション、記録、警察通報等の基準がある
  • 採用面談、SNS、懇親会など、求職者等との接触ルールがある
  • 研修、相談体制、事例対応の運用状況を定期的に見直している

企業のハラスメント対策に関するよくある質問

Q.一度の言動でもハラスメントになりますか?

A.

なり得ます。言動の種類、重大性、状況によって判断されます。意に反する身体接触、暴行、重大な侮辱などは、一度でも就業環境を害する可能性があります。反対に、回数だけで機械的に判断することもできません。

Q.事実関係が明らかでなくても相談を受ける必要がありますか?

A.

相談を受ける必要があります。相談時点で法的要件や証拠がそろっていないのは珍しくありません。相談を拒まず、緊急性を確認し、必要な安全確保と事実確認へつなげます。

Q.匿名相談は必ず設けなければなりませんか?

A.

匿名相談そのものが、すべての企業に独立して義務付けられているわけではありません。ただし、小規模事業場や上司が関係する事案では、匿名相談や外部窓口が相談のしやすさを高めることがあります。匿名では調査や結果説明に限界があることも伝えます。

Q.厳しい指導はすべてパワハラになりますか?

A.

業務上必要かつ相当な範囲の適正な指示・指導はパワハラではありません。ただし、人格否定、公開の場での長時間の叱責、達成不可能な要求などは、目的に必要性があっても手段・態様が相当性を欠く可能性があります。

Q.正社員以外も保護の対象ですか?

A.

対象です。パート、アルバイト、契約社員など、雇用形態を問わず事業主が雇用する労働者が対象です。派遣労働者については、派遣元と派遣先の双方が必要な措置を講じます。

Q.産業医がハラスメントかどうかを判断しますか?

A.

通常、産業医を中心的な事実確認担当者や懲戒の単独判断者にはしません。産業医は健康状態の評価、治療や休養への接続、就業上の配慮に関する意見などを主に担います。体制により調査へ助言する場合はありますが、人事・法務等との役割を明確に分けます。

Q.苦情を受けたら、すべてカスハラとして対応を打ち切ってよいですか?

A.

適切ではありません。正当な苦情や改善要求、合理的配慮の申出まで排除しないよう、要求内容と手段・態様を分けて確認します。安全を脅かす暴力や脅迫等には毅然と対応しつつ、通常の苦情対応との境界を社内で共有します。

Q.カスハラ対策と求職者等セクハラ対策はいつから義務ですか?

A.

2026年10月1日から事業主の義務になります。方針・規程、相談窓口、現場対応手順、採用活動ルール、研修まで事前に整備しておく必要があります。

まとめ

ハラスメント対策では、法律上の定義を覚えるだけでなく、相談を受けた後に組織が動ける仕組みをつくることが重要です。経営方針、規程、相談窓口、安全確保、迅速で公正な事実確認、被害者の健康と就業の支援、適正な行為者対応、再発防止を一体として運用します。

特に、2026年10月1日から義務化されるカスタマーハラスメントと求職者等に対するセクシュアルハラスメントへの対応では、現場対応と採用活動のルールを具体化する必要があります。人事・法務が事実確認と組織対応を担い、産業医・保健師が健康支援と就業上の配慮を担うなど、役割を分けながら連携することが、従業員と企業の双方を守る対策につながります。

産業保健体制もあわせて見直す ハラスメント相談後の健康支援、メンタルヘルス不調への対応、復職支援を安定して行うには、相談窓口と産業保健の連携設計が欠かせません。産業医の選任や契約体制を見直す際は、自社の規模・業種・支援内容に合う産業医を比較して検討することが大切です。

※本記事は一般的な情報提供を目的とするもので、個別事案の法的判断や医療上の診断を行うものではありません。具体的な事案では、弁護士、社会保険労務士、産業医等の専門家や都道府県労働局へご相談ください。

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