健康診断における検査項目の意味・結果の見方・事後措置を解説|産業医explorer

健康診断における検査項目の意味・結果の見方・事後措置を解説

記事(全体向け)

2026年10月11日

企業担当者のための健診実務ガイド

健診を、
受けて終わりにしない。

検査項目の理解から、再検査への対応・医師の意見聴取まで。
会社の「次に何をする?」が分かる健康診断ガイドです。

健診結果はそろったものの、「再検査が必要な従業員をどうフォローするか」「この結果で夜勤や残業を続けてよいか」で迷っていませんか。健診は、結果を受け取った後の対応まで整えることで、従業員の健康と安定した事業運営を支える取り組みになります。

会社が押さえたいのは、対象者・検査項目・健診後の対応の3点です。 本記事では、法定健診の基本と各項目の意味に加え、産業医と連携して進める事後措置を整理します。50人未満の事業場でも、対象者への健診や異常所見者についての医師等の意見聴取は必要です。

参考:厚生労働省|職場の健康診断実施強化月間・2026年資料 / 厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条)

健診後の相談先を整えたい方へ:産業医に相談できること →

01目的とメリット

会社の健康診断は、働き続けられる職場をつくるためのもの

職場の健康診断は、病気の早期発見だけが目的ではありません。結果と仕事内容を合わせて確認し、受診支援、労働時間の調整、作業環境の改善につなげることにも役割があります。同じ検査値でも、日中の事務作業と、夜勤・暑熱作業・重量物を扱う仕事では、確認すべき負担が異なります。

参考:厚生労働省|職場の健康診断実施強化月間・2026年資料 / 秋田労働局|健康診断の事後措置

1.従業員の健康を守り、安定した就業を支える

自覚症状だけでは気づきにくい健康課題を捉え、必要な診療や生活習慣の見直しにつなげます。治療と仕事を両立しやすい勤務上の配慮まで進めることが、安心して働ける職場づくりに役立ちます。受診そのものだけで欠勤や休職を防げるわけではなく、結果を行動につなげることが大切です。

2.担当者が判断を抱え込まず、安全配慮義務への対応を進められる

「誰に受診を勧めるか」「どの勤務に配慮が必要か」を産業医等と整理すれば、担当者が検査値だけで判断する運用から離れられます。健診の実施、医師の意見、会社が行った措置を記録することは、法令遵守と安全配慮義務への対応を具体化するうえでも重要です。

3.健康経営を、受診率だけで終わらない取り組みにできる

再検査が必要な人の受診状況や、職場全体の血圧・血糖などの課題を把握すれば、自社に合った健康施策を検討できます。健康経営の取組を、従業員が利用しやすい相談体制や勤務の見直しにつなげましょう。認定制度を目指す場合は、申請年度・部門ごとの要件を確認します。

関連:健康経営のメリット・認定制度・始め方

参考:e-Gov|労働契約法(第5条) / 厚生労働省|職場の健康診断実施強化月間・2026年資料

02受診対象を決める

会社の健康診断は義務?対象者と実施時期

労働安全衛生法第66条により、事業者には法令に定める健康診断の実施義務があります。一般の定期健診は、企業規模にかかわらず「常時使用する労働者」が対象です。健診を受けさせる義務と、50人以上の事業場に関する報告・産業医選任のルールは、分けて確認します。

表は左右にスクロールして確認できます。

健診の種類・対象者・時期
種類 対象者の目安 実施時期・確認点
雇入時の健康診断 常時使用する労働者として雇い入れる人 雇入れの際。3か月を経過しない健診結果の証明書面を提出した場合、相当する項目を省略できる規定がある。
定期健康診断 常時使用する労働者 1年以内ごとに1回、定期に実施。毎年同じ年度内に実施するだけでなく、前回からの間隔を確認。
特定業務従事者の健康診断 深夜業など、指定業務に常時従事する人 対象業務への配置替えの際と、6か月以内ごとに1回。一般健康診断の一種。
海外派遣労働者の健康診断 6か月以上海外に派遣する労働者 派遣前と、帰国後に国内の業務へ就かせる際。一時帰国のたびに必要という意味ではない。
給食従業員の検便 事業に附属する食堂・炊事場の給食業務に従事する人 雇入れ時・配置替え時。食品衛生上の検便とは制度を分けて確認。
特殊健康診断など 法令で定める有害業務に従事する人など 物質・作業・業務歴により判断。一般健診に加えて必要になる場合がある。

参考:e-Gov|労働安全衛生法(第66条ほか) / 厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条) / 厚生労働省・職場のあんぜんサイト|特殊健康診断

パート・アルバイトは、契約期間と所定労働時間で判断する

雇用形態の名称ではなく、原則として次の両方を満たすかを確認します。

  • 期間の定めなく雇用されている、または1年以上の雇用が予定されている・更新により1年以上引き続き雇用されている。
  • 1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上である。

特定業務従事者健診では、雇用期間の目安は6か月になります。通常の労働者の2分の1以上・4分の3未満の所定労働時間でも、一定の雇用期間を満たす場合は実施が望ましいとされています。一方、特殊健診の対象から外すために、一般健診の「4分の3」という条件をそのまま使うことはできません。

参考:厚生労働省|短時間労働者に係る労働条件の確保・改善 / 厚生労働省・職場のあんぜんサイト|特殊健康診断

夜勤・特定業務は「年1回」で足りないことがある

深夜業を含む業務などに常時従事する労働者には、6か月以内ごとの健診が必要です。深夜は原則として午後10時から午前5時まで。単発の残業と継続的な深夜勤務を区別し、勤務実態を確認します。

特定業務には、暑熱・寒冷、有害放射線、著しい粉じん、異常気圧、著しい振動、重激な作業、強烈な騒音、坑内作業、深夜業、有害物の取扱い、有害物のガス等が発生する場所の業務、病原体による汚染のおそれが著しい業務、その他の指定業務があります。

参考:厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条)

派遣社員・役員の扱い

派遣労働者の一般健診は原則として派遣元、有害業務に係る特殊健診は原則として派遣先が実施します。役員は肩書だけでなく労働者性で判断し、従業員としての立場も持つ場合は対象になり得ます。労働者に当たらない代表者などは、労働安全衛生法上の労働者健診の対象とは別に、経営を支える健康管理として受診を検討します。

参考:厚生労働省|派遣労働者に係る安全衛生管理の特徴 / e-Gov|労働安全衛生法(第66条ほか)

03検査の漏れを防ぐ

一般健康診断の法定項目と、省略できる条件

以下は、2027年3月31日までの雇入時・定期健康診断の基本項目です。「健診コースに入っている項目」と「法律上必要な項目」は同じではありません。予約時にはコース名だけでなく、検査内容を確認しましょう。

雇入時・定期健康診断の基本11項目
項目 主な内容・相違点
既往歴・業務歴 過去の病気と、これまでに従事した業務を確認する。
自覚症状・他覚症状 本人が感じる症状と、医師の診察による所見を確認する。
身体計測・感覚器 身長、体重、腹囲、視力、聴力。定期健診には一部の省略・代替の規定がある。
胸部の検査 胸部X線。定期健診では喀痰検査も規定されるが、省略基準がある。雇入時の基本項目に喀痰検査はない。
血圧 収縮期血圧・拡張期血圧。
貧血 赤血球数、血色素量(ヘモグロビン)。
肝機能 GOT(AST)、GPT(ALT)、γ-GTP(γ-GT)。
血中脂質 LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪。
血糖 血糖検査。法定健診の実施方法としてHbA1cによる実施も認められる。
尿 尿糖、尿蛋白。
心電図 安静時心電図。

白血球、血小板、尿酸、CRP、便潜血、肝炎ウイルス検査などは、一般健診で全員に一律義務付けられた項目ではありません。血清クレアチニンは2027年4月から追加されます。ASTとGOT、ALTとGPT、γ-GTとγ-GTPは、それぞれ対応する検査の呼び方です。

参考:厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条) / 秋田労働局|定期健康診断等における血糖検査の取扱い / 厚生労働省|2027年4月施行の健診項目等の改正通知

定期健診の省略は、基準に照らして医師が判断する

年1回の定期健診における主な省略基準
項目 省略を検討できる主な条件
身長 20歳以上。
腹囲 40歳未満(35歳を除く)、妊娠中など腹囲が内臓脂肪の蓄積を反映しないと診断された人、BMI20未満など。BMI22未満で自ら測定した値を申告した場合の規定もある。
胸部X線 40歳未満のうち20・25・30・35歳を除き、感染症法上の特定の対象者や、じん肺法上の一定の健診対象者に該当しない人。
喀痰 胸部X線を省略した人、または胸部X線で病変がない人・結核発病のおそれがないと診断された人。
貧血・肝機能・脂質・血糖・心電図 40歳未満(35歳を除く)。

この表に該当しても、会社や本人の判断だけで検査を外すことはできません。 医師が病歴・症状・過去の結果などを踏まえて判断します。雇入時健診には、現行制度では定期健診と同じ年齢による省略基準はありません。直近の結果を利用する場合も、対象項目と証明書面を確認します。

定期健診の聴力検査には、45歳未満(35歳・40歳を除く)で医師が適当と認める別の検査方法に代えられる規定があります。「省略」と「代替」も区別して運用します。

参考:厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条) / 秋田労働局|健診項目・省略基準の一覧

問診・業務歴は、採血と同じく重要な情報

採血や画像では捉えにくい症状、通院・服薬、仕事の負担を確認するため、問診も欠かせません。会社は必要な勤務情報を医師に伝え、従業員は医療職に健康上の悩みを相談できるようにします。病名や治療内容の詳細を、人事・上司へ一律に申告させる運用にはしないことが大切です。

参考:厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条) / 厚生労働省|労働者の心身の状態に関する情報の取扱い指針

04結果票を読み解く

健康診断の検査項目の意味と、結果の見方

結果票は、総合判定 → 指摘された項目 → 医師の指示・受診時期の順に見ると整理しやすくなります。「基準範囲から外れた=病気が確定」「範囲内=すべての病気がない」という意味ではありません。A・B・Cなどの判定記号も、健診機関ごとの説明を確認してください。

基準範囲、病気の診断基準、治療で目指す値は別です。過去の結果、症状、服薬、検査時の条件を合わせて評価します。以下は理解のための目安であり、担当者が診断・治療方針・就業可否を決めるための数値表ではありません。

参考:東京大学保健センター|健診項目の説明 / 日本動脈硬化学会|動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022 / 日本糖尿病学会|糖尿病診療ガイドライン2024・診断

身体計測は一般健診の法定項目

身体計測|身長・体重・BMI・腹囲

BMIは「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で計算する体格の指標です。日本の成人では、18.5未満が低体重、25以上が肥満の分類に当たります。ただし、筋肉量や体重の変化も含めて確認します。意図しない体重減少も、見逃したくない変化です。

腹囲は内臓脂肪の蓄積を推定する指標で、男性85cm以上・女性90cm以上は日本のメタボリックシンドロームの診断で用いる基準です。腹囲だけで診断するわけではなく、血圧・血糖・脂質などの条件と組み合わせます。

参考:東京大学保健センター|BMI / 東京大学保健センター|腹囲

一般健診の法定項目

血圧|健診1回の測定だけで高血圧を確定しない

血圧は、血液が動脈の壁に与える圧力です。収縮期血圧は心臓が収縮したとき、拡張期血圧は拡張したときの値を示します。診察室では140/90mmHg以上、家庭では135/85mmHg以上が高血圧の診断基準で、上・下のいずれかが基準以上の場合を指します。

ただし、緊張や測定条件で変動するため、複数回の測定や家庭血圧の記録を含めて医師が判断します。高値が続く場合は、症状がなくても受診へつなげましょう。診断基準と、治療中の人が目指す降圧目標は同じではありません。

参考:日本高血圧学会|高血圧診断基準について / 日本動脈硬化学会|健康診断でチェックすべき検査値

一般健診の法定項目

視力・聴力|数値と、実際の見え方・聞こえ方を確認

視力は裸眼または矯正した状態で測ります。1.0以上であっても、目の病気がすべて否定されるわけではありません。視野の欠けや急な視力低下があれば、健診結果を待たずに眼科へ相談します。

聴力は通常、1,000Hzと4,000Hzの音への反応を調べます。異常があれば詳しい検査につなげ、騒音のある職場では作業環境や聴覚保護の状況も確認します。検査の代替が認められる条件は、法定項目の章で説明しています。

参考:東京大学保健センター|視力 / 東京大学保健センター|聴力 / 厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条)

胸部X線・心電図・肺機能|それぞれ調べるものが違う

画像・生理機能検査で分かること
検査 意味と、読み方の注意点
胸部X線 肺や心臓などの陰影から、結核、炎症、腫瘤、心拡大などの手掛かりを調べる。構造の重なりなどで判定しにくい場合があり、X線だけですべての病気を除外・確定できるわけではない。
心電図 心臓の電気的な活動を記録し、不整脈や心筋の異常などの手掛かりを調べる。心臓の形を直接見る検査ではなく、記録中に起きなかった不整脈などは捉えられない場合がある。
肺機能検査 肺活量や1秒量など、主に空気を出し入れする換気機能を調べる。スパイロメトリーは、ガス交換能力を直接測る検査ではない。一般健診で全員に必須の項目ではない。

症状が続いている場合は「健診で異常なし」でも医療機関へ相談します。一般健康診断と、がんの発見を主な目的とするがん検診は、目的や項目が同一ではありません。

参考:東京大学保健センター|胸部X線検査 / 東京大学保健センター|心電図 / 日本内科学会雑誌|呼吸機能検査の理解と臨床応用

法定の貧血検査は、Hbと赤血球数

血液一般|ヘモグロビン・赤血球・白血球・血小板

血球に関する検査
項目 意味と主な見方
ヘモグロビン(Hb) 赤血球に含まれ、酸素を運ぶたんぱく質の量。低下は貧血を判断する重要な手掛かりとなる。鉄不足、出血、慢性疾患など、原因は一つではない。
赤血球数(RBC) 酸素を運ぶ赤血球の数。貧血や多血の評価に使うが、脱水などの影響も受けるため、Hbなどと合わせて読む。
白血球数(WBC) 感染症、炎症、薬の影響、血液の病気などで増減する。数だけで「免疫力が高い・低い」とは判断できない。一般健診の一律必須項目ではない。
血小板数(PLT) 止血に関わる細胞成分の数。増減の原因はさまざまで、出血症状や他の検査を合わせて評価する。一般健診の一律必須項目ではない。

貧血があると指摘されても、自己判断で鉄不足と決めつけないことが大切です。結果票や医師の指示に従って、原因の確認と必要な治療につなげます。

参考:東京大学保健センター|血液検査(血球検査) / 厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条)

一般健診の法定項目は、AST・ALT・γ-GTP

肝・胆道系|AST・ALT・γ-GTP・ALPなど

肝臓・胆道に関する検査
項目 意味と主な見方
AST(GOT) 肝臓のほか筋肉などにもある酵素。肝障害だけでなく筋肉の損傷などでも上昇する。
ALT(GPT) 主に肝細胞の障害を捉える指標。脂肪肝、肝炎、薬剤の影響などで上昇する。
γ-GTP(γ-GT) 肝臓・胆道系の異常や飲酒・薬剤の影響などで上昇する。「高い=飲酒が原因」とは限らない。
ALP 肝臓・胆道や骨などに由来する酵素。胆汁の流れや骨の状態などを評価する手掛かり。一般健診の一律必須項目ではない。
総ビリルビン(T-Bil) 主に赤血球の成分の分解で生じる色素。肝臓・胆道の異常、溶血、体質などで上昇する。一般健診の一律必須項目ではない。

「肝機能」という欄の数値は、肝臓の働きそのものを一つの値で測っているわけではありません。複数の項目、過去からの変化、服薬・飲酒歴などを合わせて判断します。低い値も一律に「問題なし」とせず、結果票の判定を確認してください。

参考:東京大学保健センター|肝・胆道系酵素

Crは2027年4月追加/尿糖・尿蛋白は現行の法定項目

腎機能・尿|クレアチニン・eGFR・尿蛋白など

腎臓・尿に関する検査
項目 意味と主な見方
クレアチニン(Cr) 筋肉に由来する老廃物。腎臓からの排泄が低下すると上がりやすいが、筋肉量や脱水などにも影響される。
eGFR クレアチニン、年齢、性別などから推算する腎臓のろ過能力。一般に低いほど腎機能の低下が疑われる。クレアチニンとは別に採血する検査ではなく、計算で求める値。
尿素窒素(BUN) たんぱく質の代謝で生じる老廃物に関する指標。腎機能のほか、脱水や食事などでも変化する。一般健診の一律必須項目ではない。
尿蛋白 腎臓などの異常を調べる手掛かり。運動や発熱に伴い、一時的に陽性になることもある。
尿潜血 腎臓・尿路の病気などを調べる手掛かり。月経の影響なども確認する。一般健診の一律必須項目ではない。
尿糖 血糖上昇の手掛かり。ただし血糖が高くなくても陽性になることがあり、糖を尿へ出す薬の影響も受ける。陰性でも糖尿病は否定できない。

慢性腎臓病(CKD)は、腎障害を示す所見、またはeGFRが60mL/分/1.73m²未満という状態などが、3か月を超えて続く場合に診断されます。1回だけの結果で「慢性」と決めつけませんが、3か月受診を待ってよいという意味ではありません。 急な悪化や大きな異常は、速やかな評価が必要です。

参考:日本腎臓学会|腎臓検診でわかること / 日本腎臓学会|慢性腎臓病(CKD) / 東京大学保健センター|糖代謝 / 厚生労働省|2027年4月施行の健診項目等の改正通知

LDL・HDL・中性脂肪は一般健診の法定項目

脂質|LDL・HDL・中性脂肪

脂質の意味と代表的な診断基準
項目 意味・判断の目安
LDLコレステロール 高値は動脈硬化性疾患のリスクになる。140mg/dL以上が高LDLコレステロール血症、120〜139mg/dLは境界域。
HDLコレステロール 40mg/dL未満が低HDLコレステロール血症。高ければ高いほど安全とは限らず、他の脂質異常が帳消しになるわけでもない。
中性脂肪(TG) 食事や飲酒の影響を受ける。空腹時150mg/dL以上、随時175mg/dL以上が高トリグリセライド血症の基準。
総コレステロール・non-HDL 総コレステロールはコレステロールの総量。non-HDLは総コレステロールからHDLを引いた値で、他の脂質と合わせて評価する。

これは診断のための基準であり、そのまま薬物治療の開始基準・治療目標になるわけではありません。年齢、喫煙、高血圧、糖尿病、腎臓病、心筋梗塞などの既往も合わせて判断します。治療中の人は、健診票の「基準範囲」だけでなく主治医が設定した目標を確認します。

参考:日本動脈硬化学会|動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022 / 日本動脈硬化学会|健康診断でチェックすべき検査値

血糖検査は一般健診の法定項目

糖代謝|血糖とHbA1cは、見ている時間が違う

血糖は採血時点、HbA1cは主に過去1〜2か月の血糖状態を反映します。血糖は食事からの時間で変わるため、空腹時か随時かを区別します。空腹時採血では一般に10時間以上の絶食を基準にしますが、飲食・服薬は健診機関や主治医の指示に従い、自己判断で治療薬を中止しないでください。

HbA1cには血糖以外の影響もあります。鉄欠乏状態では高めに、溶血・失血後などでは低めに出ることがあり、「貧血なら低くなる」とは一括りにできません。

空腹時血糖126mg/dL以上、HbA1c6.5%以上などは「糖尿病型」の基準です。糖尿病の診断には、血糖値を含む検査、必要に応じた再検査、症状などの確認が必要です。HbA1cだけを繰り返し測って確定診断することはできません。 ただし、同じ採血で血糖値とHbA1cがともに糖尿病型など、1回の検査で診断できる場合もあります。

法定健診の血糖検査をHbA1cで実施できることと、医療機関での糖尿病の確定診断は、別の話です。

参考:日本糖尿病学会|糖尿病診療ガイドライン2024・診断 / 東京大学保健センター|糖代謝 / 日本動脈硬化学会|動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022 / 秋田労働局|定期健康診断等における血糖検査の取扱い

一般健診の一律必須項目ではない検査

尿酸・CRP・肝炎ウイルス検査

尿酸(UA)はプリン体の代謝で生じる物質です。高値は痛風や尿路結石などに関わりますが、高い人全員が痛風になるわけではありません。極端な低値にも、腎臓での排泄の問題など、確認が必要な場合があります。

CRPは体内の炎症に伴って上昇する指標です。感染症、けが、炎症性疾患などさまざまな原因で変化し、CRPだけで病名を特定することはできません。

肝炎ウイルス検査では、HBs抗原はB型肝炎ウイルスの感染状態、HBs抗体は免疫の状態などを調べる手掛かりです。HCV抗体はC型肝炎ウイルスへの現在または過去の感染で陽性になり得ます。現在の感染は、HCV-RNA検査などで確認します。感染症に関する検査は、目的の説明、本人の意思、結果の取扱いへの配慮が必要です。

参考:東京大学保健センター|尿酸 / 東京大学保健センター|CRP定量 / 肝炎情報センター|B型肝炎 / 肝炎情報センター|C型肝炎 / 厚生労働省|労働者の心身の状態に関する情報の取扱い指針

便検査|便潜血と、食品衛生の検便を区別する

便潜血検査は、便に混じった微量の血液を調べる検査です。陽性でも直ちに大腸がんとは限りませんが、必要な精密検査へ進むことが大切です。もう一度便潜血検査を受けて陰性になっても、精密検査の代わりにはなりません。 一般に大腸内視鏡検査などで調べます。

一方、給食・食品取扱い業務の便培養などは、食中毒に関わる病原体等を確認するものです。対象・頻度は、労働安全衛生規則に加え、学校給食や大量調理施設などに適用される衛生管理基準を確認します。寄生虫検査も、渡航歴や感染リスクに応じて検討され、全員に同じ内容が必要なわけではありません。

参考:国立がん研究センター|大腸がん検診 / 厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条)

検査項目の索引へ戻る

05健診結果を次の対応へ

健康診断後に会社が行うこと|事後措置の6ステップ

健診を予約する段階で、結果受領後の担当者、医師に確認する時期、受診勧奨の方法まで決めておくと、対応漏れを防ぎやすくなります。受診率100%はゴールではなく、事後措置を進めるための出発点です。

  1. 結果と未受診者を確認する

    受診状況、結果未回収、検査項目の不足を確認します。健診機関から緊急の連絡があった結果や、早期対応が必要な所見は、通常の処理順を待たず医師へつなぎます。

  2. 本人へ通知し、個人票を作成・保存する

    本人に健診結果を遅滞なく通知し、健康診断個人票を整備します。原則5年間の保存が必要ですが、特殊健診などは別の保存期間があります。

  3. 異常所見者について、医師等の意見を聴く

    医師・歯科医師から、健康を保持するために必要な措置について意見を聴き、記録します。検査結果だけでなく仕事内容・勤務時間・有害業務の情報も用意します。一般健診等の期限は下表で確認します。

  4. 医師等の意見を踏まえて、必要な措置を決める

    会社は本人の意見も聴き、必要に応じて労働時間、深夜業、作業内容、配置などを調整します。医師の意見を踏まえ、実際に行う措置と見直し時期を明確にします。

  5. 再検査・精密検査・治療や保健指導につなげる

    対象者へ個別に受診を勧め、予約や勤務調整で困っていないか確認します。医師・保健師による保健指導を受けられるよう努めることも、健診を活用する大切な取組です。

  6. 対応を確認し、報告・翌年の計画へ反映する

    受診の進み具合、勤務上の配慮の継続・解除、未対応の人を確認します。必要な法定報告を行い、結果を個人が特定されにくい形で集計して、職場全体の対策にもつなげます。

参考:厚生労働省|職場の健康診断実施強化月間・2026年資料 / 厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条) / 秋田労働局|健康診断の事後措置

医師の意見聴取は、起算日を間違えない

一般健診等の結果に関する意見聴取の期限
対象となる結果 期限の起算点と期間
会社が実施した一般健康診断など 健診実施日から3か月以内。 会社が結果を受け取った日からではない。
会社の健診に代えて提出した、他の医師による同等の健診結果 労働安全衛生法第66条第5項ただし書に基づく場合は、証明書面の提出日から3か月以内。
深夜業従事者が法定の要件を満たして提出する自発的健康診断の結果 同法第66条の2に基づく場合は、証明書面の提出日から2か月以内。 自費の検査すべてがこの制度になるわけではない。

上の期限は、異常所見がある場合の医師等の意見聴取についてのものです。法定の自発的健康診断には、受診前6か月間を平均して月4回以上の深夜業に従事した常時使用労働者であること、受診後3か月を経過しないうちに結果を提出することなどの要件があります。特殊健診等は、それぞれの規定も確認します。

参考:厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条)

「要再検査」と「就業制限」は、別の判断

健診機関の「要再検査」「要精密検査」「要治療」は、主に医療的な確認・対応の必要性を示します。「通常勤務でよいか」「夜勤や残業を減らすか」には、仕事内容を踏まえた医師の意見が必要です。健診票の総合判定だけで、法定の意見聴取まで済んだとは判断できません。

一律に休業させることも、「自覚症状がないから問題ない」とすることも避けます。産業医は、健診結果や本人の状態を仕事の負担と結び付けて評価し、会社が必要な措置を検討するための意見を示します。

参考:秋田労働局|健康診断の事後措置 / 厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条)

受診勧奨は、案内して終わりにしない

「受診してください」という連絡に加えて、受診先が分からない、予約が取れない、勤務調整が難しいといった障壁を確認します。連絡日・受診予定・確認日を記録し、医学的な相談は医療職につなぎます。

会社の確認は、受診の有無や必要な勤務上の配慮を中心に、目的に必要な範囲で行います。病名や治療内容の詳細を上司まで共有したり、対象者の名簿を広く配布したりする必要はありません。

参考:厚生労働省|職場の健康診断実施強化月間・2026年資料 / 厚生労働省|労働者の心身の状態に関する情報の取扱い指針

健康経営に活かすなら、受診後の指標も見る

管理指標の例として、健診受診率に加え、医師の意見聴取が必要な人の対応完了率、再検査対象者の受診確認率、就業上の措置の見直し状況を確認する方法があります。これは実務上の管理例であり、全企業に共通する認定の必須指標という意味ではありません。

部署ごとの集計では、少人数の部署や希少な病気から個人が推測されないようにします。数値を従業員の評価に使うのではなく、受診しやすさや職場環境の改善に活かしましょう。

参考:厚生労働省|労働者の心身の状態に関する情報の取扱い指針 / 厚生労働省|職場の健康診断実施強化月間・2026年資料

06一般健診との違い

特殊健康診断|有害業務のリスクに合った検査を行う

特殊健康診断などは、有害物質・放射線・粉じんなどによる健康への影響を確認するための健診です。「一般健診か特殊健診か」の二者択一ではありません。 対象業務によっては、一般健診に加えて実施します。

次の表では代表的な10種類を整理しています。検査は業務歴・症状の確認が基本となり、物質や作業に応じた検査、医師が必要と判断する追加検査を組み合わせます。表の検査例だけで全項目を満たすとは限らないため、予約時には業務・物質名を健診機関へ伝えます。

表は左右にスクロールして確認できます。

代表的な特殊健診など①|物理的要因・粉じん
健診 対象と検査の例 実施時期の基本
高気圧業務 高圧室内業務・潜水業務に常時従事する人。業務歴、症状、四肢の運動機能、鼓膜・聴力、血圧、尿、肺活量など。 雇入れ・配置替え時、6か月以内ごとに1回。
電離放射線 放射線業務に常時従事し、管理区域に立ち入る人。被ばく歴、血球検査、眼・皮膚の検査など。線量等と医師の判断による省略規定がある。 雇入れ・配置替え時、6か月以内ごとに1回。
除染等電離放射線 法令で定める除染等業務に常時従事する人。被ばく歴、血球検査、眼・皮膚の検査など。通常の放射線業務とは適用規則が異なる。 雇入れ・配置替え時、6か月以内ごとに1回。
石綿 石綿等の製造・取扱い業務に常時従事する人や、一定の過去従事者で現に雇用されている人。業務歴、症状、胸部X線など。 対象業務への雇入れ・配置替え時、6か月以内ごとに1回。過去従事者も対象範囲を確認。
じん肺 法令で定める粉じん作業の従事者・一定の過去従事者。粉じん作業歴、胸部X線、所見に応じた肺機能検査など。 就業時、定期、定期外、要件を満たす離職時。定期の間隔は従事状況・管理区分で異なる。

参考:厚生労働省・職場のあんぜんサイト|特殊健康診断 / 神奈川労働局|じん肺健康管理実施状況報告

表は左右にスクロールして確認できます。

代表的な特殊健診など②|化学物質・歯科
健診 対象と検査の例 実施時期の基本
特定化学物質 法令で定める物質の製造・取扱い業務の従事者など。物質ごとに業務歴、症状、尿・血液検査などの内容が異なる。 原則として雇入れ・配置替え時、6か月以内ごとに1回。過去従事者が対象となる物質もある。
鉛 法令で定める鉛業務の従事者。業務歴・作業条件、症状、血中鉛、尿中デルタアミノレブリン酸など。 雇入れ・配置替え時、原則6か月以内ごとに1回。一部の業務は1年以内ごと。
四アルキル鉛 四アルキル鉛等を扱う法定の業務の従事者。業務歴・作業条件、症状、血中鉛、尿中デルタアミノレブリン酸など。 雇入れ・配置替え時、原則6か月以内ごとに1回。
有機溶剤 屋内作業場等で、法令で定める有機溶剤業務に常時従事する人。業務歴・症状のほか、物質に応じた尿中代謝物、貧血・肝機能検査など。 雇入れ・配置替え時、原則6か月以内ごとに1回。物質の種別だけでなく作業場所・内容で判断。
有害な業務に係る歯科 酸など、歯やその支持組織に有害なガス・蒸気・粉じんが発生する場所の業務の従事者。歯・歯周組織の状態などを歯科医師が確認。 雇入れ・配置替え時、6か月以内ごとに1回。通常のむし歯・歯周病予防の歯科受診とは別の制度。

有機溶剤健診は第1種・第2種が中心ですが、第3種でもタンク内部などの一定の作業は対象となります。「第3種だから不要」と物質の分類だけで決めないことが重要です。

参考:厚生労働省・職場のあんぜんサイト|特殊健康診断 / 厚生労働省|特殊健康診断の健診項目の改正 / e-Gov|有機溶剤中毒予防規則 / 厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条)

じん肺健診は、管理区分と現在の作業で間隔が変わる

定期のじん肺健診は、現在粉じん作業に常時従事している人では、管理区分1は3年以内ごと、管理区分2・3は1年以内ごとが基本です。過去に従事し、現在は非粉じん作業で働く人では、管理区分2は3年以内ごと、管理区分3は1年以内ごとです。管理区分や症状、離職時の申出などに応じた別の実施要件もあるため、受診歴と従事歴を管理します。

参考:神奈川労働局|じん肺健康管理実施状況報告 / 厚生労働省・職場のあんぜんサイト|特殊健康診断

特殊健診を年1回にできる制度は、条件付き

有機溶剤、鉛、四アルキル鉛、特定化学物質の一部では、一定の要件をすべて満たした労働者について、6か月以内ごとの健診を1年以内ごとにできる規定があります。特別管理物質などは対象から除かれます。

代表的な要件は、直近3回の作業環境測定が第1管理区分であること(四アルキル鉛を除く)、直近3回の健診で新たな異常所見がないこと、前回健診後に作業方法を大きく変えるなどの変更がないことです。会社全体の一括省略ではなく、対象業務・労働者ごとに要件を確認します。

参考:広島労働局|特殊健診の実施頻度の緩和(2ページ) / 厚生労働省|新たな化学物質規制

リスクアセスメント対象物健診は、従来の特殊健診とは別に確認する

化学物質を取り扱う場合は、リスクアセスメント対象物健康診断についても確認します。これは、全対象物質の取扱者に半年ごとの一律採血を求める制度ではありません。

実施の条件を分けて確認する
状況 必要な対応
常時従事者について、リスクアセスメントから健康影響のリスクが認められる場合 リスクアセスメントの結果に基づき、関係労働者の意見を聴いて必要性を判断し、必要と認めるときは医師等が必要と認める項目の健診を行う。
国の濃度基準値を超えてばく露したおそれがある場合 当該労働者に、医師等が必要と認める項目の健診を速やかに実施する。常時従事しているかどうかだけでは対象外にできない。

同じ物質について特殊健診等が既に義務付けられている場合には、重複実施を要しない扱いがあります。まずばく露を減らす措置を行い、物質名・取扱量・作業方法・ばく露状況を産業医等に伝えて、検査と職場改善を検討します。

参考:厚生労働省|リスクアセスメント対象物健康診断 / 厚生労働省|新たな化学物質規制

07運用ルールを整える

健診結果の保存・報告・費用と、健康情報の扱い

保存期間は、健診の種類と起算日をセットで管理する

健康診断個人票などの主な保存期間
記録 保存の基本
一般健康診断・有害業務の歯科健診 5年間。
高気圧・鉛・四アルキル鉛・有機溶剤 原則5年間。
特定化学物質 原則5年間。対象となる特別管理物質等は長期保存の規定がある。
電離放射線・除染等電離放射線 原則30年間。法令に定める機関への引渡し等の扱いもある。
石綿 当該事業場で対象業務に常時従事しなくなった日から40年間。
じん肺 健診の記録とエックス線写真を7年間。
リスクアセスメント対象物健診 5年間。がん原性物質に係るものは30年間。

特定化学物質の対象となる長期保存では、対象業務に常時従事することとなった日から30年という取扱いと、個々の記録の5年保存の両方を確認します。「特殊健診はすべて受診日から30年」などと一括りにはできません。退職・配置転換・会社の廃止時の扱いも含め、対象物質と適用規則を確認してください。

参考:厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条) / 愛知労働局|長期保存が必要な健康診断結果等 / 神奈川労働局|じん肺健康管理実施状況報告 / 厚生労働省|新たな化学物質規制の概要(4ページ)

報告義務は「会社全体の人数」だけで決めない

常時50人以上の労働者を使用する事業場では、定期健康診断や特定業務従事者健診について、所轄の労働基準監督署への結果報告が必要です。人数は原則として事業場単位で判断します。雇入時健診などまで、すべてこの報告の対象になるわけではありません。

有害な業務に係る歯科健康診断は、定期に実施したものについて、事業場の人数にかかわらず報告が必要です。他の特殊健診でも、人数にかかわらず定期健診の報告が必要なものがあります。実施義務と報告対象は分けて確認します。

じん肺健康管理実施状況報告は、前年1年間の状況を翌年2月末日までに報告します。「健診のたびに直ちに出す報告」ではなく、対象事業場ではその年にじん肺健診を実施していなくても報告が必要です。じん肺管理区分の決定に関する手続とは別に管理します。

参考:厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条) / 神奈川労働局|じん肺健康管理実施状況報告

電子申請は、対象手続と経過措置を確認する

2025年1月から、定期健康診断、有害な業務に係る歯科健康診断、有機溶剤等健康診断、じん肺健康管理実施状況報告など、一部の労働安全衛生関係手続は電子申請が原則となっています。すべての特殊健診報告が同時に対象となったわけではありません。

当分の間、書面報告も認められる経過措置があります。健診機関に報告用データの作成範囲を確認し、会社側の提出担当者・期限も決めておきましょう。

参考:厚生労働省|労働安全衛生関係の一部手続の電子申請 / 厚生労働省|2027年4月施行の健診項目等の改正通知

費用と受診時間は、分けてルールを決める

法令に基づき会社が実施すべき健康診断の費用は、事業者が負担します。従業員が希望する任意の追加検査や、健診後の通常の診療・再検査まで、同じ範囲で会社が一律に負担するという意味ではありません。法定の特殊健診に含まれる追加検査などとは区別します。

一般健診の受診時間中の賃金は労使で定めるものとされ、厚生労働省は支払うことが望ましいとしています。一方、特殊健診の受診に要する時間は労働時間とされ、賃金の支払が必要です。受診しやすさと精算方法を社内ルールとして明確にしましょう。

参考:新潟労働局|健康診断の費用負担等 / 厚生労働省|健康診断を受けている間の賃金

健康情報は、必要な人に必要な範囲で共有する

健診結果は機微性の高い情報です。会社は利用目的、取扱者、アクセス権限、保存方法を定め、医療職・人事・上司の役割を分けます。上司には、診断名や全検査値ではなく、勤務上の配慮や禁止・制限事項など、業務に必要な内容を中心に伝えます。

法定健診の結果を会社が取り扱う場合と、任意検査や主治医の詳しい診療情報を取得する場合は、同じではありません。本人同意が必要な範囲を確認し、同意があっても目的を超えて共有しない運用にします。

参考:厚生労働省|労働者の心身の状態に関する情報の取扱い指針

08施行前の制度改正

2027年4月の健診項目改正|いま準備したいこと

公布済みの改正により、2027年4月1日から一般健康診断の項目等が変わります。現時点で既に義務化されている内容ではありません。健診機関への予約やシステム更新は、施行時期を踏まえて準備します。

主な変更点と会社の準備
変更点 対応のポイント
血清クレアチニン検査の追加 雇入時・定期・特定業務従事者・海外派遣労働者の健診などに追加。健診コース、結果データ、個人票の項目を確認。
喀痰検査の削除 定期・特定業務従事者・海外派遣労働者の健診から削除。他の法令に基づく検査や、医療機関の診療まで不要になるわけではない。
肝機能検査の酵素名の変更 GOT・GPT・γ-GTPに係る法令上の名称を変更。健診データの項目名や対応関係を確認。
個人票・報告事項等の変更 クレアチニンの追加、喀痰の削除、eGFRの記載等に対応。報告するクレアチニンの有所見者数はeGFRの値を用いて判断。

参考:厚生労働省|2027年4月施行の健診項目等の改正通知

クレアチニンの省略基準は、他の採血項目と同じではない

定期健診・特定業務従事者健診におけるクレアチニンの年齢による省略基準は、40歳未満です。貧血・肝機能・脂質・血糖などと異なり、この年齢基準には「35歳を除く」という条件が付きません。ただし、省略は医師が必要でないと認める場合の扱いであり、会社が自動的に外せるわけではありません。

この年齢基準を、そのまま雇入時健診や海外派遣労働者健診に流用しないでください。eGFRはクレアチニン等から計算する指標で、別の採血検査を追加するという意味ではありません。

予約・記録・事後措置を、まとめて更新する

  • 健診機関に、施行後の検査項目・省略判断・結果データ形式を確認する。
  • 社内の個人票、健診システム、報告用データの項目を更新する。
  • 産業医と、腎機能の結果に応じた受診勧奨・意見聴取の運用を確認する。

喀痰検査が一般健診の法定項目から外れた後、その結果を任意に取得する場合は、本人同意など適切な取得根拠も確認します。結核等が疑われる症状がある人については、定期健診の時期を待たず医療機関へつなぎます。

参考:厚生労働省|2027年4月施行の健診項目等の改正通知 / 厚生労働省|労働者の心身の状態に関する情報の取扱い指針

女性の健康課題への対応は、「新たな一律必須検査」と混同しない

厚生労働省の2026年の健診実施強化資料では、女性の健康課題に関する問診を、必須ではなく任意で活用する取組も示されています。従業員が医療職に相談しやすい機会として活かし、回答を直接会社へ提出させるものとは区別します。

参考:厚生労働省|職場の健康診断実施強化月間・2026年資料

09担当者の疑問に答える

会社の健康診断でよくある質問

Q.50人未満の事業場でも、健診後の対応は必要ですか?

対象者への健康診断、異常所見者についての医師等の意見聴取、必要な措置は、50人未満でも必要です。産業医の選任義務がないことと、健診後の対応を省略できることは別です。継続的な相談先を確保し、結果と仕事内容を合わせて確認できる体制を整えましょう。

参考:厚生労働省|職場の健康診断実施強化月間・2026年資料 / 厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条)

Q.人間ドックや他院の健診で代えることはできますか?

会社の法定健診に相当する内容を受け、結果を証明する書面を提出する方法があります。ただし、人間ドックという名称だけで必要項目がそろうとは限りません。不足項目や受診時期を確認し、会社が保存・意見聴取などを行えるようにします。雇入時健診の直近結果利用には、3か月を経過しない健診であることなどの条件があります。

参考:e-Gov|労働安全衛生法(第66条ほか) / 厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条)

Q.既に通院している従業員も、会社の健康診断を受けますか?

通院中であることだけでは、法定健診が不要になるわけではありません。診療では、会社の健診に必要な項目がすべて実施されるとは限らないためです。同等の健診結果の利用や不足項目は、健診機関・産業医等と確認します。

参考:e-Gov|労働安全衛生法(第66条ほか) / 厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条)

Q.健診を受けたくないという従業員には、どう対応しますか?

法令上、対象となる労働者にも受診義務があります。まず、日程、費用、検査への不安、健康情報の取扱いなど、受診しづらい理由を個別に確認します。会社指定の医師による受診を希望しない場合には、同等の健診結果を提出できる仕組みも説明します。強い働きかけや処分を先に考えるのではなく、受診可能な方法を整理します。

参考:e-Gov|労働安全衛生法(第66条ほか) / 新潟労働局|健康診断の費用負担等 / 厚生労働省|労働者の心身の状態に関する情報の取扱い指針

Q.再検査の結果が届くまで、医師の意見聴取を待ってよいですか?

再検査結果がまだなくても、法定の意見聴取の期限が自動的に延びるわけではありません。現時点の結果と勤務状況を医師に伝え、当面の配慮や受診の優先度を相談し、追加情報が届いたら見直します。

参考:厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条) / 秋田労働局|健康診断の事後措置

Q.健診結果が悪ければ、必ず休業させるべきですか?

健診の総合判定と、仕事を続けるための条件は別に評価します。医師の意見と本人の状態・業務の負担を踏まえ、通常勤務、労働時間や作業内容の調整、休業など、必要な対応を会社が検討します。担当者が数値だけで一律の就業制限を決めないことが大切です。

参考:秋田労働局|健康診断の事後措置 / 厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条)

Q.会社の健康診断だけで、がんもすべて調べられますか?

一般の法定健診だけで、すべてのがんや病気を調べられるわけではありません。胸部X線が含まれていても、がん全般を否定できるわけではなく、便潜血などは一般健診の一律必須項目ではありません。症状がある場合は健診を待たず受診し、がん検診は別に対象や方法を確認します。

参考:厚生労働省|労働安全衛生規則(第43〜52条) / 東京大学保健センター|胸部X線検査 / 国立がん研究センター|大腸がん検診

10産業医との連携

健診後の判断を、担当者だけで抱え込まないために

会社の健康診断は、対象者を選び、検査を実施するところで終わりではありません。結果を理解し、医師の意見を踏まえて、受診支援や働き方の調整につなげることが重要です。

特に「異常所見者が多い」「夜勤や長時間労働がある」「特殊健診が必要か分からない」といった職場では、産業医と継続的に相談できる体制が、担当者の判断と運用を支えます。

参考:厚生労働省|職場の健康診断実施強化月間・2026年資料 / 秋田労働局|健康診断の事後措置

相談したい業務を具体的にすると、産業医を選びやすくなる

産業医探しの前に整理しておきたいこと
自社で整理する情報 相談・依頼したい内容の例
事業場ごとの人数・所在地・勤務形態 継続的な産業保健体制、訪問・相談の頻度。
健診の時期・結果の受領方法 健診後の意見聴取、面談、受診勧奨の進め方。
夜勤・運転・暑熱・化学物質などの業務 業務負担を踏まえた就業上の措置、必要な健診の確認。
いま困っている対応・社内の担当体制 人事担当者との役割分担、健康情報の扱い、職場全体の健康施策。

対応できる業務、面談の方法、訪問頻度、料金は、候補の産業医との間で確認します。健診結果の確認だけでなく、その後の受診支援・勤務調整まで、どこを依頼したいかを明確にしましょう。

参考:産業医explorer|使い方ガイド

関連:50人未満の事業場が産業医を選任するメリット

記事の冒頭へ戻る

本記事は企業担当者向けの一般的な解説です。個別の診断・治療・就業上の措置は、本人の状態と仕事内容を踏まえて医師等に相談してください。制度は施行日・対象業務により異なります。

 

この記事の関連記事

ストレスチェック制度とは?対象者・実施方法・結果の見方と50人未満の義務化

人事・総務・安全衛生担当者の実務ガイド 結果を、相…

人事・総務・安全衛生担当者の実務ガイド 結果を、相…

50人未満の事業場が産業医を選任する6つのメリット

50人未満の事業場・企業担当者のための実務ガイド…

50人未満の事業場・企業担当者のための実務ガイド…

企業のハラスメント対策とは?法的義務・相談対応などを解説

職場のハラスメント対策は、問題が起きた後に行為者を処…

職場のハラスメント対策は、問題が起きた後に行為者を処…

企業は健康経営銘柄を目指すべき?健康経営のメリット・認定制度・資格・始め方

本記事では、健康経営がどの程度広がっているか、健…

本記事では、健康経営がどの程度広がっているか、健…

健康診断における検査項目の意味・結果の見方・事後措置を解説

企業担当者のための健診実務ガイド 健診を、受けて終…

企業担当者のための健診実務ガイド 健診を、受けて終…

有害かも知れない化学物質を扱ってますがどうしたらいいでしょうか?

「ぱっと見て法的な規制に該当しなさそうだったので何もしていま…

「ぱっと見て法的な規制に該当しなさそうだったので何もしていま…

熱中症対策で御社の生産性が上がります

熱中症とは、高温多湿等の暑熱環境において体温調節が困難となり…

熱中症とは、高温多湿等の暑熱環境において体温調節が困難となり…

専属産業医が他事業場で嘱託産業医としても選任されるのは問題ないですか?

「専属産業医として勤務しておりますが、週3の訪問なので、他の…

「専属産業医として勤務しておりますが、週3の訪問なので、他の…

新着記事

ストレスチェック制度とは?対象者・実施方法・結果の見方と50人未満の義務化

人事・総務・安全衛生担当者の実務ガイド 結果を、相…

50人未満の事業場が産業医を選任する6つのメリット

50人未満の事業場・企業担当者のための実務ガイド…

企業のハラスメント対策とは?法的義務・相談対応などを解説

職場のハラスメント対策は、問題が起きた後に行為者を処…

企業は健康経営銘柄を目指すべき?健康経営のメリット・認定制度・資格・始め方

本記事では、健康経営がどの程度広がっているか、健…

健康診断における検査項目の意味・結果の見方・事後措置を解説

企業担当者のための健診実務ガイド 健診を、受けて終…

有害かも知れない化学物質を扱ってますがどうしたらいいでしょうか?

「ぱっと見て法的な規制に該当しなさそうだったので何もしていま…

熱中症対策で御社の生産性が上がります

熱中症とは、高温多湿等の暑熱環境において体温調節が困難となり…

専属産業医が他事業場で嘱託産業医としても選任されるのは問題ないですか?

「専属産業医として勤務しておりますが、週3の訪問なので、他の…

有機溶剤はたまに使うだけなので特殊健康診断しなくて大丈夫ですよね?

「有機溶剤??うちは有機溶剤は扱ってないです。スプレーですか…

従業員の健康に関する個人情報は外部に漏れている場合がありますが大丈夫ですか?

個人情報には十分な配慮が必要な世の中になっておりますが、従業…